Dolce
/ ˈdoltʃe /
ドルチェ
定義
柔らかに、愛らしく。音量を下げることが目的ではなく、 音色そのものを甘く、丸くすることが求められる。
よくある誤解
「dolce = ピアノで弾く」という理解は間違いではないが、本質ではない。 音量がゼロに近くても音色が鋭ければdolceではないし、 mfでも音の角が取れていればdolceになりうる。 音の「甘さ」は音量ではなく、音色と息遣いから生まれる。 弓なら圧力を抜いて速度を落とす、管楽器なら喉を開いて柔らかい息を使う。
語源と本来の意味
イタリア語 dolce(甘い・優しい・心地よい)。 ラテン語 dulcis(甘い・愛らしい)に由来し、英語の dulcet(甘美な)と同語源。 食べ物の「甘さ」と音楽の「甘さ」を同じ言葉で表す文化。 「Dolce far niente(甘美な無為)」という慣用句があるほど、 dolceには心地よい余裕のニュアンスが含まれている。
dolceが求める音色
音の「角」を取り、輪郭を柔らかくすること。 アタックを丸め、音の立ち上がりをなだらかにする。 弦楽器なら弓の毛の面積を増やし、圧力より速度で音を出す。 音量より密度を落とすイメージ。 音が「置かれる」のではなく「溶け込む」感覚が理想だ。
他の記号との使い分け
dolceが「音色の甘さ」なら、cantabileは「歌い方の流れ」、 graziosoは「動作の優雅さ」。 同時に指示されることも多い(dolce cantabile等)。 また amabileよりdolceの方が内向きで官能的で、 amabileは少し外向き、人懐っこい性格を持つ。 最上級の dolcissimo(最も甘く)は広く使われる最上級形。月光ソナタ第1楽章の指示は delicatissimamente(最も繊細に)で別の語。
音色の質感
代表的な用例
Mozart
ピアノ協奏曲第21番 K.467
第2楽章 — dolceの象徴的な旋律
Chopin
夜想曲 第2番 変ホ長調 Op.9-2
冒頭 — dolceな歌い出し
Brahms
ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77
第2楽章 — dolceの旋律線
Schubert
弦楽五重奏曲 ハ長調 D.956
第2楽章 — dolceの深み
Beethoven
ピアノソナタ第14番「月光」Op.27-2
第1楽章 — "delicatissimamente e senza sordino" の指示
Fauré
シシリエンヌ Op.78
全体 — dolceの典型的な表情