Mormorando
モルモランド
定義
ぶつぶつとつぶやくように、さざ波のようにざわめいて。「つぶやき」「水のせせらぎ」「遠くで鳴る声」——すべて mormorando の音型だ。gridando(叫ぶ)の対極にある最小の音による最大の持続——音楽が消えそうで消えない、絶えず動き続けるが決して前に出てこない性格を指す。
sussurrando との違い
sussurrando(ささやくように)は人が耳元で語るイメージ——一方向の密かな声。mormorando はより環境的・持続的——泉のせせらぎ、木々のざわめき、群衆のざわめき。ひとつの音源というより「場」全体が絶え間なく音を発し続ける感覚がある。イタリア語で小川や泉の音を mormorio(ムルムリオ)と言うのはこの語の語感をよく表している。
語源
ラテン語 murmurare(つぶやく・ざわめく・低くうなる)——擬音語的起源を持つ語で、murmur(つぶやき・ざわめき)が名詞形。英語 murmur と完全に同語源。ラテン語の murmur は水の音・蜂の羽音・人の低い声など、連続する低音を広く表した。日本語の「ざわめく」「さざ波」に近い感覚。
演奏上の意味
pp〜ppp の領域で、音を途切れさせず一定の流れを保つ。弦楽器では弓速を上げて弓圧を極限まで軽くし、音が「漂う」感覚を作る。ピアノではペダルを深く踏み込み倍音の霞の中に旋律を溶かす。音の粒を明確にするより、流れとして認識されることを優先する——個々の音より全体のテクスチャーが支配的になる演奏。
ロマン派・印象主義での用法
夜想曲の伴奏部分・「前奏曲集」の水を描く楽曲・「水の戯れ」——いずれも mormorando 的なテクスチャーを持つ。ロマン派では「自然描写」として、印象主義では「音による絵画」として機能した。20世紀には弦楽器の col legno(弓の木部で弾く)なども mormorando 的な使われ方をする。