Spianato
スピアナート
定義
平らに、平滑に。音楽の表面から凹凸をすべて取り除き——強調も、突出もなく、音楽が一枚の平面のように流れることを求める語だ。「Andante spianato」(平らに流れるアンダンテ)という複合形でとくに知られ、装飾を排し、均一な声部バランスで、川面のように滑らかに進む演奏がその理想だ。
soave / dolce との違い
soave(柔らかく甘く)は音の質感——絹のような滑らかさで触れる感覚。dolce(甘く)は音色の甘さを求める。spianato はそれらより空間的な平坦さを優先する——表面が均一で、どこにも突起がない状態。ダイナミクスのふくらみも、リズムのアクセントも、スタッカートも——すべてが「平らな川面」を乱す波紋を立ててはならない。
語源
イタリア語 spianare(平らにする・ならす・整地する)の過去分詞形——「平らにされた」。語根はラテン語 planus(平ら)——英語の plane・plain・explain と同語源。建築・農業用語として「地面をならす」意味で使われ、音楽においては「音楽の起伏をならす」転義で定着した。
演奏上の意味
ダイナミクスの急変を避け、フレーズ全体に均一な音量・音色を保つ。アクセントは最小化し、音の粒が揃ったレガートで演奏する。弦楽器では弓速と弓圧を一定に保ち、弓の返しで音色が変わらないよう注意する。ピアノでは各声部のバランスを均一にし、旋律だけが前に出るのではなく全体が同じ平面の上に乗る感覚で弾く。「均一さ」が美徳になる珍しい指示だ。
「アンダンテ・スピアナート」Op.22
《アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ》Op.22(1834年)の冒頭部分「アンダンテ・スピアナート」は、三連符が途切れなく流れる穏やかな前奏部だ。左手の伴奏も右手の旋律も一切の突出がなく、音楽が水面のように均一に広がる——spianato の美学が最もよく体現された作品として知られる。