奏法記号 Italian

Senza sordino

センツァ・ソルディーノ

弱音器を外して演奏することを指示する語。イタリア語 senza(〜なしで)+ sordino(弱音器・ミュート)。弦楽器・金管楽器では「ミュートを外す」指示だが、ピアノでは「ダンパーを外す=ダンパーペダルを踏む」という特殊な意味を持ち、Beethovenの月光ソナタで有名な問題を生む。→ Con sordino

弦楽器・金管楽器の場合

Con sordino(弱音器あり)の状態から、弱音器を外して元の明るく豊かな音色に戻す指示。弦楽器では駒のミュートを素早く取り外す。金管楽器ではベルに挿したミュートを抜く。

Con sordino → Senza sordino の転換は、音楽的効果として劇的な音色対比を生む。弱音器付きの柔らかく抑制された音から、弱音器なしの明るく豊かな音への変化は、緊張からの解放・夜から朝への転換などを表現するために使われる。

ピアノの場合:ダンパーの問題

ピアノにおける「sordino」はダンパー(弦に触れて振動を止めるフェルト片)を指す。したがって:

senza sordino = ダンパーなしで = ダンパーペダル(右ペダル)を踏んだ状態

ダンパーペダルを踏むとダンパーが全弦から離れ、弾いた音が余韻とともに持続する。Beethovenの時代のフォルテピアノでは右足のレバーでこの操作をした。

月光ソナタの指示

Beethoven ピアノソナタ第14番「月光」Op.27-2(1801年)第1楽章の冒頭に次の指示がある:

"Si deve suonare tutto questo pezzo delicatissimamente e senza sordino"

(この楽章全体を、きわめてデリケートに、senza sordino で演奏すること)

つまり「第1楽章全体を通して右ペダルを踏みっぱなしにせよ」という指示。Beethovenの意図は、全弦が共鳴し続ける朦朧とした音響効果にあった。

現代ピアノでの解釈問題

Beethovenが使ったフォルテピアノは弦が薄く音が短く減衰するため、ペダルを踏みっぱなしにしても現代ほど音が混濁しない。しかし現代のスタインウェイ等では弦の振動が長く続くため、同じことをすると三声部が全て混じり合って濁音になる。

現代の演奏慣習では「作曲家の意図を尊重しながら、コード変化のタイミングでペダルを替える」というアプローチが一般的。楽譜通りに「踏みっぱなし」を実行する演奏家もいるが、それはフォルテピアノの音響を現代ピアノで意図的に模倣する選択として理解される。

Beethoven

ピアノソナタ第14番「月光」Op.27-2(1801年)

第1楽章冒頭の "senza sordino" 指示。ピアノにおけるこの用語の最も有名な用例

Beethoven

ピアノソナタ第17番「テンペスト」Op.31-2(1802年)

同様のペダル指示を持つ。Beethovenのペダル語法の研究として重要な楽曲

Mahler

交響曲第5番 嬰ハ短調(1902年)第4楽章 Adagietto

弦楽器のsenza sordino(弱音器なし)への転換が音楽的クライマックスを作る