ジャズ理論 Greek

Dorian Mode

ドリア旋法

自然短音階(エオリアン)の第6音を半音上げたモード(1, 2, ♭3, 4, 5, 6, ♭7)。短調の暗さを持ちながら長6度が光として開くため、「希望のあるマイナー」とも呼ばれる。モーダル・ジャズの代表的スケールとして1959年以降のジャズ語法に欠かせない。

音響的特性

Dドリアン:D, E, F, G, A, B, C, D
(CメジャーをDから弾くと自然に生まれる)

自然短音階(Dエオリアン:D, E, F, G, A, B♭, C)との唯一の違いは第6音のB♭→B。この半音1つの差が音楽的な色合いを大きく変える。B♭があると「純粋な短調」の閉じた暗さになる。Bナチュラルがあると、暗さの中に「明るい外を覗く窓」が開く。

IIm7コードとの対応

ジャズのII-V-I進行において、IIm7コードの基本スケールがドリアンモード。Dm7上ではDドリアン、Gm7上ではGドリアンが対応する。

コード・スケール理論ではドリアンのアヴェイラブル・テンションは9度(E)・11度(G)・13度(B)の全て。特に13度(長6度=B)が「ドリアンらしさ」を示す音であり、アドリブでこの音を強調することでドリアンの色彩が際立つ。

モーダル・ジャズの開幕

1959年、マイルス・デイヴィスの"Kind of Blue"に収録された"So What"は、DドリアンとE♭ドリアンだけで演奏される16小節+8小節のシンプルな構造を持つ。コード進行の代わりにスケール(モード)を演奏の土台とするこの選択が「モーダル・ジャズ」の誕生を告げた。

Dm7(コード)の上でドリアン・スケールを使うことで、IIm7→V7→Iという「解決を急ぐ」感覚から解放され、スケール内での自由な動きが16小節かけてゆっくり展開できる。

楽器ごとのアプローチ

管楽器・鍵盤ではドリアン・スケール内のモチーフ(特に特徴的な長6度を含む音型)を反復・発展させることが中心的な手法。"So What"のテーマはドリアンの4度積み重ね(完全4度のヴォイシング)そのものをモチーフにしている。

コントラバスではDm7上のウォーキング・ラインでドリアンを使う際、Bナチュラル(長6度)をアプローチ・ノートとして用いると「明るいマイナー」の色彩が出る。この1音がラインに柔らかい光をもたらす。

Miles Davis

So What (Kind of Blue, 1959)

モーダル・ジャズの開幕宣言。DドリアンとE♭ドリアンのみで構成される歴史的演奏

John Coltrane

Impressions (1961)

So Whatと同じ構造を持つコルトレーン作の発展形。より複雑なアドリブが展開

Herbie Hancock

Maiden Voyage (1965)

サスペンデッド・コードとドリアン的発想の融合。モーダルの浮遊感を極めた名曲