Con espressione
/ kon esprɛsˈsjoːne /
コン・エスプレッシオーネ
定義
「表情を込めて」。espressione(表情、表現)とともに。 espressivoの名詞構文版で、演奏者が意識的に情感を引き出す行為を求める。 音を鳴らすのではなく、音に「意味」を与えながら弾く指示。
espressivoとの違い
espressivoは形容詞・副詞的で「表情豊かな演奏様式」を示す。 con espressioneは「表情と共に」という能動的な構文で、 意識的な働きかけのニュアンスが強い。 espressivoが「自然とにじみ出る表情」を求めるなら、 con espressioneは「意図して引き出す表情」を求める。 どちらも同じ文脈で使われるため区別は微妙だが、 特にピアノのソロ旋律に con espressione が書かれる時は、 作曲家が「ここは歌ってください」と明示的に訴えているサインだ。
歌唱的な旋律で
con espressioneはとりわけ声楽的な旋律に多く登場する。 旋律が「語りかける」ように、フレーズの頂点で わずかに息を込め、下降部でほんの少し重さを足す。 楽器が「言葉を持っているかのように」弾く—— 音符を並べるのではなく、文章を読み上げるように。 声楽の歌曲をピアノで弾く時のような感覚が近い。
「無言歌集」の例
「無言歌集」は con espressioneの精神が全曲を支配する作品集だ。 タイトル通り「言葉のない歌」—— ピアノが声楽旋律を代弁し、 それを con espressione で弾くことで初めて完成する音楽。 「歌うように、しかし大げさにならず」という バランスを楽譜に埋め込んでいる。
ロマン派の感情語法
ロマン派の演奏実践では、 con espressioneは単なる指示を超えて 「演奏者が自分自身を音楽に委ねる」という姿勢そのものを指した。 「テクニックはただの手段だ、 音楽は心から来なければならない」—— その「心から来る演奏」がcon espressioneの本質に他ならない。
代表的な用例
Schubert
ピアノソナタ イ長調 D.959
con espressioneの歌が各楽章の核を作る
Mendelssohn
無言歌集 Op.19, 30, 38 ほか
con espressioneが全曲集の演奏指針
Chopin
夜想曲 全般
歌謡的なフレーズのcon espressioneな処理が命
Brahms
間奏曲集 Op.118
con espressioneの内省が後期様式の深みを作る