Ritenuto
リテヌート / 略記: riten. (まれに rit.)
定義
即座にぐっと遅くなること。段階的に減速するritardandoとは異なり、テンポが次の拍から一気に「引き留められる」。新しい低いテンポでそのまま保持されるのが特徴。
語源と本来の意味
イタリア語 ritenere(引き留める・抑える)の過去分詞。ラテン語 retinere に由来。「だんだん遅くなる」ではなく「遅くなった状態で止まる」という完了の意味合いが強い。
略記 "rit." の混乱
ritenuto は riten. と略記するのが正式だが、作曲家によっては rit. と書くことがある。これはritardandoの略記 rit. と完全に一致するため、楽譜を読む際は文脈・直後のテンポの動きで判断する必要がある。
ritardando との比較 — 減速プロセスの違い
ritardando(段階的な減速)
時間をかけてゆっくりと遅くなる。聴衆・演奏者ともに「変化のプロセス」を体験する。演奏上はテンポを少しずつ落としていくコントロールが必要。指示された直後から徐々に変化が始まる。
ritenuto(即時の引き留め)
指示が書かれた次の拍から即座に新しいテンポへ移行する。「だんだん」という経過時間がない。新しいテンポはそのまま維持されるため、演奏者は瞬時に切り替え、そのテンポで安定させる技術が求められる。
演奏者視点での使用感覚
ritardandoが「落としていく」感覚なのに対し、ritenutoは「踏みとどまる」感覚に近い。弦楽器では弓を一瞬止めるような感覚、声楽では言葉の重みで自然に引き留める。指揮者がいる場合、次の拍の振りが明確に変わるので視覚的なきっかけがある。
楽曲における役割
感情の急激な変化、言葉の強調(歌曲・合唱)、場面転換の「間」を演出する場面に使われる。ritardandoがセクションをなだらかに終わらせるのに対し、ritenutoは聴衆を一瞬驚かせる効果を持つ。ロマン派の歌曲・ピアノ小品で特に多用される。
代表的な用例
Brahms
インテルメッツォ Op.118 No.2
中間部での突然の引き留め — riten. が表情を一変させる
Schumann
子供の情景 Op.15
各小品の終わりに見られる ritenuto — 「間」の演出
Schubert
即興曲 Op.90 No.3
rit. 表記だが文脈上 ritenuto と解釈される箇所あり