発想記号 Italian

Con gusto

コン・グスト

趣味よく、好みをもって、味わいながら。音楽の性格・様式・言語を深く理解した上で、それに沿った判断力で演奏する指示。技術的な正確さの上に音楽的な教養と判断を求める。

gusto の意味

イタリア語 gusto は「味覚」「好み」「審美眼」を意味する。英語 gusto(熱意・楽しみ)とは微妙にずれる——音楽上の con gusto は「食べ物を味わうような細やかな識別力」が本来の意味に近い。作品の様式的な慣習、フレーズの語法、時代の演奏習慣を知った上で判断する「分かる人の演奏」という含意がある。

語源

ラテン語 gustus(味覚・試食)から。gustare(味わう)が動詞語根。英語 taste / gusto・フランス語 goût(趣味・好み)と同語源。「良い趣味(buon gusto)」は18世紀音楽美学の中心概念で、バロック・古典期の批評において「理性的な美の判断力」を意味した。

演奏上の意味

con gusto は特定の音量や速度を指定しない。代わりに、作品の様式・調性・テクスト・時代に応じた適切な判断を求める。バロック作品での con gusto は装飾・リズムの柔軟性・強弱の付け方を様式に従って判断することを意味し、ロマン派作品では表情の選択を本能より教養で行うことを求める。

con brio・con spirito との違い

con brio(活気をもって)・con spirito(生き生きと)はエネルギーの質を指定する。con gusto はエネルギーより演奏者の音楽的判断力に働きかける。「どう弾くか」ではなく「何を分かって弾くか」という次元の指示だ。演奏の知性的な側面への要求といえる。