速度変化 Italian

Tempo primo

テンポ・プリモ / 略記: Tempo I

曲の冒頭(または第1主題提示部)のテンポに戻ること。「最初のテンポ」という意味どおり、楽曲が始まった時点の速度を明示的に呼び戻す指示。a tempo より射程が長く、構造的な意味を持つ。

a tempo との違い

a tempo は「直前に指定されていたテンポに戻る」局所的な指示。tempo primo は「この楽曲・楽章が始まった時のテンポに戻る」という構造的な指示。途中で大きなテンポ転換(Un poco più lento 等)があった場合、a tempo は転換後のテンポへ戻るが、tempo primo は転換前の最初のテンポへ戻る。

Tempo I という略記

楽譜では Tempo I(テンポ・プリモのローマ数字表記)と書かれることも多い。第2テンポが設定された作品では Tempo II も現れ、それぞれ「第1のテンポ」「第2のテンポ」を指す番号として機能する。複数のテンポが対比される作品での「テンポの番地」になる。

演奏者視点での使用感覚

長い演奏の途中で tempo primo が出たとき、冒頭のテンポを正確に覚えているかが問われる。ソロ演奏では自分の記憶、合奏では指揮者が基準になる。「あのときより速くなっていた・遅くなっていた」という演奏のブレが、tempo primo で露わになることがある。

楽曲における役割

ソナタ形式の再現部、ロンド形式の主題再帰、序奏付き楽章での主部回帰など、「最初に戻る」という構造的な節目に現れる。tempo primo はテンポの指示であると同時に「ここが同じ世界の再現だ」という作曲家からのサインでもある。

Beethoven

ピアノ・ソナタ Op.13「悲愴」第1楽章

Grave(序奏)→ Allegro → Tempo I(Grave 再現)という大きな構造

Schubert

弦楽四重奏曲「死と乙女」

緩徐楽章で変奏後に Tempo I が呼び戻す

Brahms

交響曲第4番 第1楽章

展開部から再現部への Tempo I — 「帰還」の感覚