Estompé
エストンペ
定義
ぼかして、輪郭を薄めて。硬いアタックを避け、音の縁を溶かすように弾く指示。視覚芸術でデッサンの線をこすりぼかす道具(estompe)からの転用で、音響的な霞みを要求する。
一般的な解釈
音のアタックを丸め、輪郭がはっきり聞こえないように弾く。pp・ppp での演奏が前提となることが多く、ペダルを深く踏んで残響で音を覆うことで輪郭の霞みを実現する。音が「聞こえているか分からない」ぎりぎりの弱さが理想とされる。
語源と本来の意味
estompe(エスタンプ)は紙や革を筒状に巻いたデッサン用のぼかし道具。これで鉛筆や木炭の線をこすり、輪郭をグラデーションに変える技法が estomper(ぼかす)。estompé はその過去分詞で「ぼかされた状態」。楽譜に用いると「輪郭を溶かした音色で」の意味になる。
演奏者視点での使用感覚
ピアノでは指先を鍵盤表面に添わせるように弾き、打鍵の衝撃を最小化する。アクセントは禁物。鍵盤を「押す」のではなく「導く」感覚。弦楽器ではボウの重さを抜いて、弓速を落とした pp での演奏が対応する。
lointain との違い
lointain(遠くから)が空間的な距離感を指すのに対し、estompé は音色の質感そのもの——輪郭のぼやけ、柔らかさ——を指定する。両者が重なって使われることもあるが、lointain が「どこから聞こえるか」を示し、estompé が「どのような音色か」を示す点が異なる。